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ADHDの「強み」

 アンデシュ・ハンセン氏の「多動脳 ADHDの真実」を読みました。氏はスウエーデンの精神科医で、世界的ベストセラー「スマホ脳」の著者です。
 日本では出版されたばかり。平積みになっていた本書の帯に次のようにあり、思わず手に取りました。

 「注意力散漫、移り気、そそっかしい…… その『弱点』が『能力』になる! なぜ人類にADHDという『能力』が残ったのか?」

 職業柄、ADHDの新しい知見を得たいのもありますが、何より、かねてより私自身にADHDの傾向があると思っているからです。とにかく集中力がないのです。新聞を読んでいてもテレビを見ていても、いろんなことに気が散って、一人でいるときはよく席を立ちます。こうしてPCで書いていても、打ち間違いがしょっちゅう。落ち着いた人に見えるらしいのですが、本当です。 

 さて、本書によると、「なぜ人類にADHDという『能力』が残ったのか?」は、次のようないきさつです。
 人類は脳の「報酬系」の活性化を求めます。そこで威力を発揮するのは、ドーパミン。ドーパミンレベルが上がれば上がるほど、気分がよくなってやる気が出ます。
 ドーパミンの受容を妨げる「DRD4-7R」という遺伝子があります。逆説的ですが、ADHD人たちの多くはこの遺伝子の持ち主で、「報酬系」の働きが鈍いので、退屈してしまうというのです。なので、刺激を求めて四方八方に注意が向く。好奇心が旺盛で衝動的に動いてしまう。「報酬系」に強く働く食べ物、アルコール、セックス、ネットやゲーム、薬物などに嵌りやすい。
 画一的な教育環境で勤勉性を求められる現代社会においては、厄介なこともしばしばです。

 が、この特性こそが、ホモサピエンスがまだサバンナに生きていたとき、大いに狩りに発揮され、命をつないでいったのです。そして、人類は衣食住に足りても満足せず、さらに新しい刺激を求めて放浪を続け、生物の中で人類だけが全地球上に生息するに至ったというわけです。
 ホモサピエンスが誕生したのは東アフリカ。最短の移動先はヨーロッパ、一番遠くは南米です。南米まで移動した人たちって、どれだけ新し物好きでバイタリティに溢れていたのでしょう⁉ 
 面白い統計があります。「DRD4-7R」遺伝子の持ち主は、ヨーロッパでは15%、南米は50~70%! 南米の人たちが底抜けに明るくてエネルギッシュなのもうなずけます。じっとしていては、きっと退屈して死んでしまいます。

 ADHDの人たちは、思考が柔軟で、クリエイティブで、実行力もあります。ADHDがなければ、今私たちはこうして豊かな生活を享受してはいません。もしかしたら、早々に絶滅していたかもしれません。ADHDの特性を「強み」として、もっと生かせる世の中であったらいいと思います。
 本書にはさらに詳しくADHDの「強み」が説明されています。また、「弱み」とされていることへの対処法、服薬治療のことなども書かれています。関心のある方は是非ご一読をお勧めします。

 なお、ここではごくかいつまんでのご紹介で、私見も交えていますので、鵜呑みになさらないようご注意ください。本書では、次のことも繰り返し述べられています。 
 ADHDは、「DRD4-7R」遺伝子だけに由来するのではなく、他に様々な要因があること。ADHDの要因も程度もあらわれ方も人それぞれであること。私たちはみなそのグラデーションのどこかに位置する、つまりみな発達障害があるということ、など。

 私は読後、何だかすがすがしい気持になりました。ADHDの理解が深まったのもよかったですが、何より「あー、遺伝子の問題ならしょうがない」と割り切れた感じです。集中力がないならないなりに、自分に合ったスタイルで過ごせばいいのだ。

 ADHDのようにじっとしているのが苦手な人もいれば、あまり欲もなく、ただ静かに過ごすのが好きな人もいる。ルーティーンワークにうんざりする人もいれば、その方が安心な人もいる。内向的な人、外交的な人。数学が得意な人、走るのが得意な人…。性格も好みも得手不得手も人それぞれですが、先天的に遺伝子によって規定されている部分も大きいとすると、あがきにも限界があるというものです。

 自分らしくない理想を掲げてあくせくしても、結局は空回りして自分を苦しめるだけ。それよりは、自分の本来の性質はどんなものだろう、どう動くのが、あるいは動かないのがしっくりくるのだろうと、じっくり探ってみましょう。
 もちろん、この社会で生きていくからには頑張らないといけないこともたくさんあります。が、自分の傾向性に抗わず、自分のやり方で物事を進め、生き生きと楽しめる時間を過ごすことも大切なのではないでしょうか。自分の可能性を十全に発揮して、充実の人生にしたいものです。

                           心理面接室TAO 藤坂圭子