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「人生脚本」を書き換える

 TAOでは、昨年3月以来、「交流分析」のセミナーを継続して行っています。私は「交流分析」の専門家ではないのですが、人の生きづらさを理解する上で、なるほどのヒントを与えてくれるので、参加のみなさまと一緒に味わっています。
 「交流分析」はカナダ出身でアメリカで活躍した精神科医、エリック・バーンが創始したパーソナリティー理論です。自我状態の分析から編み出された性格診断テスト「エゴグラム」がよく知られていますが、何より興味深いのは「人生の脚本分析」です。

 私たちは物心ついたころから、無意識のうちに自分の人生の脚本(シナリオ)を書いているというのです。幸せな未来を約束されていると思える人もいれば、どうせ自分の人生なんてろくなものではないと思い込む人など、様々です。
 バーンによると、どんな脚本を描くかは、悲しいかな、育った環境に大きく影響されるそうです。

 子どもは無力で頼りないので、周囲の大人(主に親)に存在を認められないと生きていけません。この環境の中ではどんな感情が受け入れられやすいのかを敏感に察知して、そのように自分の感情をコントロールするというのですから、恐ろしいです。
 例えば、めそめそするより反抗する方が注目してもらえるなら怒りっぽくなる。自分を通すより遠慮深く縮こまっている方が安全なら、自信がなく怯えた人になる。そうやって、人は「本物の感情」を抑圧し、周囲に受け入れられやすい「偽物の感情(ラケット感情)」を抱くのが癖になります。
 当然それでは物事はうまく運ばず、ちぐはぐなことだらけで、そのうち「まあ人生こんなもんだ」と思い込んで、それを確認するためにまた同じような失敗を繰り返すというのです。
 「交流分析」の最大の狙いは、自分の「人生脚本」に気付き、そこから脱却することです。

 私は交流分析の手法に基づいてカウンセリングをしているわけではありません。が、クライエントさんがじっくり自分の内面を見つめていくと、自ずと自分の心の癖が、「偽物の感情」に基づいていたこと、自分がどんな「人生脚本」を描いていたかということ、そして、これこそが私の「本物の感情」だったんだ!と気付いていかれるのです。

 さて、そこからがまた大変です。今までの人生は何だったんだろうと、怒りや虚しさでいっぱいになります。明るい世界もあるのだと分かっても、眩しすぎてそこには住めない。気付かない方がよかった。今までのようにずぶずぶの人生の方が馴染んでいて楽、と引き返したくもなります。ここを乗り切るには、「心の筋肉」のようなものも必要になります。
 一人では難しいので、カウンセリングで一緒に「心の筋トレ」をしていきます。そのうち、日常世界でも新しい人やコミュニティとの出会いがあり、新たな「人生脚本」による新しい人生が始まります。長い潜水から、プハーッと大きな一息とともに水面に浮かび上がるように。

 見出しの写真は、備中松山城の猫城主「さんじゅーろー」です。四月末、スクールカウンセラーの仕事が、家庭訪問で校内ガラガラになるというので休みになり、気候も良かったので行ってきました。何十年かぶりです。
 新緑の山道をハアハア登りきると、「さんじゅーろー」が出迎えてくれました。誰が撫でても、こんな風に眠りこけています。肝っ玉の据わった猫さんです。うちの猫とは大違い。
 「さんじゅーろー」は、もともと保護猫であったそうですが、引き取られて「なつめ」という名で可愛がられていました。が、2018年の西日本豪雨の時、なぜかこの日本一の山城に迷い込み、以来住み着いたとか。コロナ禍で激減した観光客の呼び戻しに貢献し、元の飼い主さんも、お城に「さんじゅーろー」を譲り渡したそうです。
 堂々たる風格の猫城主です。こんな「猫生」になろうとは、「さんじゅーろー」自身、夢にも思わなかったでしょうが、悠々と幸せそうです。ユング心理学で言うと、「セルフ」を生きているのでしょう。

 あなたもきっと、第二の「私の人生」を送ることができます。

*次の「交流分析」セミナーは、6/22です。途中からのご参加でもできるだけわかりやすく説明します。心理学の知識がなくても大丈夫です。ご関心があれば、どうぞご参加ください。

  心理面接室TAO 藤坂圭子